Me & My Degu

デグーとの暮らし、日々のあれこれ

セルジュ・ルタンス賛江

セルジュ・ルタンス…―夢幻の旅の記録インウイのCMを集めたビデオを貸してもらってからの、時ならぬセルジュ・ルタンスブーム。私の中でだけだけど。(この人も、ルタンスなのかリュタンスなのか)昨年のセルジュ・ルタンス展に合わせて出た「夢幻の旅の記録」という本も買ったし、図書館で西垣通著「麗人伝説」も借りてきた。「麗人伝説」はルタンス作品への作者の「詩情あふるる賛美」があれこれ綴られている本だったので読みづらい。掲載されている画像を楽しむことにする。わー、やっぱり凄いセルジュ・ルタンス。でもって、このCMを作って流してた資生堂も凄いし、このCMを「なんかワカランが崇高な物に接しているぞ」と許容した世間も凄い。
私は年代的にジャストな世代なので、インウイの登場時、つまりセルジュ・ルタンスが日本の大衆の前に登場した時の衝撃を覚えている。もうなんかポカンと口を開けて見とれるしかなかった。ヨーロッパの香気が噎せ返るほどなのだが同時にオリエンタルな気配も漂う、ゴージャスで一分の隙もない、時がとまったかのような画面。なにせ「ナチュラル」という言葉からは正反対にある人工美の極致、普段の日本人の生活からはこれっぽっちも共通項のない世界。しかし「商品」なわけで、そのシーズンごとに新色なんかも出たりして。その新色をコマーシャルするフィルムに登場するルタンスの作り出す美女達のメーキャップは、まったくもって実用性のない舞妓さんやアルルカンのような白塗りの顔&くっきりとした目張りなのだ。結局、化粧品会社の「今シーズンの新しいメーキャップ」なんて、そうそう実生活に取り入れるものではないわけで、そうした実用性のないモデルのメーキャップであったとしても、全くOKなのだった。見て、これはすごい世界だなぁと感じるだけで、自分がなんだか美的に洗練されるような気がした。茶箪笥の横に置いてあるTVのブラウン管に映し出される圧倒的な「芸術」。それは見ればすぐに「ただならぬもの」であることがはっきりわかったのだ。私は先端が棒状になったマスカラを買い、南洋の鳥の羽のように鮮やかな4色がセットされたクリームアイシャドウを買った。
ううーん、実際「こわい世界」なのだ。この世界の住人は絶対に汗一つかくことも許されないだろう。完璧に計算された画面はそれ以上の要素を必要としていない。他者は邪魔者なのだ。だから誰かから愛されようなどと小賢しい事を考えるならば、氷の吐息をかけられて心臓をとめられてしまう。セルジュ・ルタンスのCMは、今でいう「モテ」などからは極北に位置する。誰かに愛されるにはどうしたらいいか、ということが身を飾る大きな目的になった今では、セルジュ・ルタンスのCMは「大袈裟なばかりでちっとも役にたたないじゃーん」ということなのだろう。もともと芸術はそんなに即効性があるわけではないものだけどね。でも、ほんと、このCM群が普通にTVで流れてた日本という国を、今更ながら誇らしく思ってしまうのだ。

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