Me & My Degu

デグーとの暮らし、日々のあれこれ

将来の夢

落穂ひろい

小さい子供に向かって「大きくなったら、なにになりたい?」と聞くのは酷だ。彼らはまだなにも世界を知らない。狭い行動範囲のなかで出会う大人の職業なんてたかが知れている。「先生」「看護婦さん」「ケーキ屋さん」「サッカー選手」「ゲームつくる人」「漫画家」あとはなんだろう?ペット屋さんとかかな?
もう後戻りできないくらい年をとってしまったオトナに向かって「なにになればよかったと思いますか?」と聞くのも、これまた酷な話。
私は小さい頃なにになりたいと思っていたんだっけ。小説家かな。なにやらノートに大長編の冒頭だけを書いたりしていたのだが、真剣に「作家になりたいっ」とは思わなかった。白地のノートに漫画をくちゃくちゃ描いたりもしたが、落書きの域をでないものだったし。大学はとりあえず美術っぽいトコという選択をし、そうして専攻を決める時は大方の「あの娘はデザイン研究室に行くだろう」という予想を裏切って、そのとき興味があった銅版を選んだ。んー、いきあたりばったり。「自分でお金を稼いだ」仕事は、ガッコの先生、バックルやアクセサリーのデザイン、今の雑用、そんなところか。
今の現状をまったく考慮に入れず、小さい頃の気分でもって、現在獲得したいろんな情報をもとに「大きくなったら、なにになりたい?」と夢を聞かれたら、そうだなぁ、「香水壜のデザイナー」になりたい、と答えよう。なかに花や麝香やスパイスのエキスでできた液体を湛えた小さくて気品のある立体。すれ違った人を惑わすような香りのボトルはあわ立つガラスでできた楔のような形で、皮のベルトで銀色のスタンドに引っ掛ける。夏の夕暮れのコテージの庭を思わせるグリーンノートは、すこし生真面目な印象の薬壜のようなたたずまい、縦に刻まれる細いダイヤカットの縞がかすかな光にもきらめくのがアクセント。
世の中にはたくさんの職業があり、それぞれに苦労することもあり、楽しいこともあり。そういうことを知った頭のまま小さい頃に戻ったあなたに聞いてみたい。「大きくなったら、なにになりたい?」