Me & My Degu

デグーとの暮らし、日々のあれこれ

T君のこと

世の中にはいろんな「オタク」がいるねって話になった。ゲームもそうだし、アニメもそう。古くは切手やらコインやら、そうそう鉄道ってのも根強いな。それからあれだ、考古学!いるいる、どっかから遺跡が発掘された時に説明会があったりすると大勢の「考古学ファン」が列をなす。見えるものなんて「掘った穴」なのにねぇ、なんて言いながらふとT君のことを思い出した。
T君とは小学校5・6年のときに同じクラスになった。コミュニケーションをとるのがあまり得意ではなく、一歩引いたところでにたにた笑いながらぶつぶつと独り言のようなものを言って会話に参加してるようなしてないような、そんな子だった。あまり几帳面ではなく、持ち物やら体がどっか汚れていることが多かったため、女子からは嫌われていた。男子からもだったかな?そんなT君と席替えで隣同士になった時のこと。
もちろん私もT君がニガテだったが、ほかの女子のように露骨にきゃーきゃー言うのもはしたないと思い、まぁ陣地からこちらに出てこなければいいや、という立場でなるべく彼の行動についてやいやい言わないことにした。
言わない、注意しない、とはいえ、彼のすることは隣であるから気になる。彼は勉強がニガテだった。そりゃそうだろう、ほとんど先生の話など聞いてはいないのだった。はじめに彼が熱中してたのは「接着剤でほわほわを作る」だった。親指と人差し指でもって、接着剤をにちゃにちゃするのである。もう、ずっと、にちゃにちゃにちゃにちゃしていると、そのうち糸のようになっていく。その根気たるや見上げたもので、時間中ずっとにちゃにちゃにちゃにちゃにちゃにちゃにちゃにちゃ、最後には接着剤はほわほわの綿のような形状となっていって、それが「出来上がり」なのだった。
数日間それをしているとサスガに飽きたのか、あるいは接着剤がなくなったのか、別の遊びを彼は「発明」したのだった。彼がもぞもぞするので気になって見てみたら、なんと彼はチャックを開けてぽろんとペニスを取り出した。おわわ、汚い!触った手で私の持ち物触らないでよね!とココロで叫んだが「せんせーい!T君がおちんちんだしてまぁす!」とは言わなかった。どうするんだ、と見ていたら、なんと彼はペニスをチューブからそのまま出した絵の具で彩色しだしたのだった。極彩色のペニス。
何日間かはいろんな模様をつけることで過ぎていったが、人間一人に一つずつしかペニスはないわけで、やはり展開はあまり無い。なんとか打開策はないものかと思ったのか思わなかったのか、しばらく考えていた彼は独創的な方法を編み出した。まだなにせ小学生、おちんちんの先は包皮に包まれている。その先端部分にえのぐをちょんちょんとつけてから紙を押し当てると、あぁらフシギ、そこには小さなドーナツ状の模様が。イヴ・クラインもびっくり。思いのほかキレイに輪ができたことが彼の創造性に火をつけたか、そこから輪っかの大量生産が始まった。机の物入れに絵の具の箱をスタンバイさせ、こまめに色を変えて赤の輪・黄色の輪・緑の輪・輪・輪・輪・輪・輪!一日の授業中ほとんどを彼は性器を露出させてすごしていたことになるな、今思えば。
しばらくそれで日々は過ぎていったが、単純に輪をプリントするだけでは物足りなくなってきたらしい彼。そんな彼が次に見つけたのは、「輪でもって絵を描く」だった。輪でモザイク画を描く。輪で埋め尽くされた矩形、打ち上げ花火のように同心円を描く丸。そして、最後に彼が行き着いたのは輪でもって描かれた「前方後円墳」なのだった。おぉ、前方後円墳、彼がそれを愛していることは、机の表面に鉛筆でいくつも描かれた大小の古墳の絵で承知していた。ここに二つの趣味が見事に合体したわけだ。彼の「輪による前方後円墳つくり」はそののちかなり長いこと続けられた。席替えをした後T君とは別の席になって非常に私はほっとしたのだが、果たして次の席でも彼は製作を続けていたのだろうか。そして、毎日彼のパンツを洗っていただろうお母さんは、いろんな色に染まる彼のパンツをいぶかしくは思わなかったのだろうか。今はもういい大人になったであろうT君、「考古学ファン」として、遺跡の説明会に足を運んだりしているのだろうか。