Me & My Degu

デグーとの暮らし、日々のあれこれ

石の花

高床式です

「フルール ド ロカイユ」というトワレを若い頃使っていた。名前の意味は「石の花」。ロシアの民話からとったもの。石工と孔雀石の精のお話らしい。バレエや映画にもなっているという。キャロンというフランスの香水メーカーの製品。そういえば今はファッションデザイナーのブランドか化粧品会社製の香水ばかりだな。キャロンのような香水専門の会社は珍しくなった。で、その「フルール ド ロカイユ」、十代のころ気に入ってほとんど毎日使っていた。香水はしっかり構成された花々の大人の香りだったがトワレはかなり軽く、すがすがしい草花の香りがした。TOPノートも好きだったが、湯船に浸かったときに立ち上るやわらかい香りが格別に好きだった。お風呂でをそれ楽しむためにつけていたといってもいいくらい。何度かリピートしていたが、そのうちトワレ自体使わなくなった。
数年前、久しぶりに化粧品のカウンターで「フルール ド ロカイユ」を見かけた。懐かしくなって手に取ったが、リニューアルとかで壜の形もそして肝心の香りも以前とは違っていて、悲しくなってしまった。香りの記憶は儚いもの。うろ覚えの前に好きだった香りはもう実際にかぐことはできなくなってしまった。それきり忘れていたのだが。
今日届いた宅配便にうれしいサプライズ!リニューアル前の「フルール ド ロカイユ」をわけていただいた。さっそく手首にふってみる。あぁ、この香りだ。以前の私が「大人の香り」と感じた、すこし苦みが混じったような甘さ。でも頭がずきずきするような重さはないし、ちょっと粉っぽいようなクラシカルな気品のあるやさしい香り。
スガシカオは曲を作るときにまず「匂い」を思い出すと言っていた。何かの情景にむすびついた匂い、それを思い出すことで、その場面に感じていた気持ちを自分の中でリピートさせて、それを曲のテーマにするという。「フルール ド ロカイユ」をかいだとき、ぱぁっと自分の中に懐かしい感情と情景がよみがえってきた。
男の子と会うときももちろんつけていた。遊びに行った帰り、図書館の暗がりで最初のキスをした。ゆっくり抱きしめられて、あぁどうしよう、キスされる、と思うとぼぅとなり、そうだ、きっと間抜けな顔をしていたに違いない。唇が離れたあと、「あのね、口が開いたままキスするの、『金魚』って言うんだよ」と笑われた。香るトワレ。かぁっと顔が赤くなったためだろう。
懐かしい香り。彼はこの香りを覚えているだろうか。あるいはどこかで「フルール ド ロカイユ」をかいだとき、私を思い出すだろうか。あ、でもリニューアルしたからもうそういう機会はないんだな…